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150号 「60周年記念大会を振り返って」 山田哲也 JAIR | JAIR Newsletter Back Issues

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JAIR Newsletter

No.150 January 2017

日本国際政治学会

http://jair.or.jp/

[目次]

巻頭言………1 理事会便り………4

事務局からのお知らせ………2 2016年度研究大会報告………6

日本国際政治学会第9回奨励賞決定………2 編集後記 ………27

2017年度研究大会分科会報告募集 ………3

60周年記念大会を振り返って

山田 哲也

研究大会の主役は部会・分科会の報告者や討論者だと考えているので、 大会実行委員長という日陰の存在が巻頭言をお引き受けするのも気がひ

けるが、60周年という節目の大会だったということでお許しを頂きたい。

大会実行委員会の仕事の大半は、学会初日の正午、つまり、受付開始 までに終わっている。研究大会開催のお知らせの発送や当日配布のレジ ュメ集の印刷依頼あたりが仕事の山場である。しかしそれも、理事長以

下、企画・研究委員会、分科会代表幹事、60 周年記念部会企画委員会、

国際交流委員会、英文ジャーナル編集委員会、広報委員会と、ほぼ学会 運営に携わっているすべての委員会でまとめてくださったものを取りま とめるのが主な仕事である。もちろん、予算との関係もあるので会計部 との連絡も欠かせない。ここまでが順調にいけば、あとは会場の設営や 懇親会のアレンジであるが、ここでは、会場、旅行代理店、ホテルとの 調整が主なので、委員長自身が頭を使う場面はあまりない。

そして学会初日の受付が始まれば、あるいは午後 1 時からの部会が無

事に始まれば、あとは各部会・分科会が順調に進行することを祈るしか

ない。むしろ、研究大会の運営を支えてくれるのは約20名の学生アルバイトの人たち、ということになる。

学生アルバイトの仕事は、大別すれば受付と会場係(マイク・ランナー)であるが、今回は全ての学生ア ルバイトが最低一回は会場係になるようにシフトを組むように工夫した。それは、実際に部会や分科会を見

てもらうことで、普段、大学で接する「教師」としての教員ではなく、「研究者」としての教員というものを

感じてもらうためである。今回、会場係を務めてくれた学生の中から一人でも「研究」の面白さを感じても らい、大学院進学を考えてくれる人が出てくれれば、私個人としても、学会としても有難いことである。

手帳を繰ってみたら、最初に60周年記念大会の実行委員長を打診されたのは2013年3月のことだった。

大会最終日の夕方、幕張メッセを後にしたとき、3 年半の責任をようやく果たせたという解放感を味わうこ

とができた。それもこれも、中西寛・前理事長と石田淳・現理事長をはじめとする学会理事会の方々のご支

援とご協力の賜物である。また今回は、坪内淳(聖心女子大学)・清水奈名子(宇都宮大学)・安田佳代(首

都大学東京)の三氏に、アルバイト学生の調達から当日の細々とした運営までお手伝い頂いた。三氏への謝 意を込めて、ここにお名前を挙げさせていただく次第である。

実行委員長は、部会・分科会をじっくり聴く時間がない(人にもよるのかもしれないが、私自身は色々な

ことが気になって、集中力を持って報告を聴く、ということができないのである)。今回のニューズレターを

(2)

事務局からのお知らせ

1. 2016年度研究大会(60周年記念大会)

2016年度研究大会(60周年記念大会)が、幕張メッセ国際会議場で10月14日(金)から16日(日)

に開催されました。大会への参加者は 750 人を数え、盛況のうちに無事終了いたしました。研究大会実

行委員会の山田哲也主任をはじめとする委員会のみなさま、またJTBによるご尽力に感謝申し上げます。

2. 2017年度研究大会

来年度の研究大会は10月27日(金)から29(日)に、神戸国際会議場(兵庫県神戸市)で開催される

予定です。研究大会実行委員会(佐渡紀子主任)、企画・研究委員会、分科会責任者連絡会議などの関係

委員会が協力して準備作業を進めております。今後、学会ウェブサイトに各種の情報を掲載いたします ので、ご確認ください。

3. Web上での会員管理システム(e-naf)への移行予定

従来冊子体で作成していた会員名簿に関し、来年度以降Web上での会員管理システム(e-naf)を活用し、 会員が相互に一定の会員情報を閲覧できるとともに、会員情報の更新を会員本人が行うことが出来るシ ステムに移行する予定です。詳細につきましては、決定し次第ご連絡差し上げる予定です。

4. 新入会員

第3回理事会(9月4日開催)、第4回理事会(10月14日開催)および第5回理事会(12月18日開催)

において、35 名の入会申し込みが承認されました。会費の納入をもって正式に会員となりますので、入

会を承認された方々は会費を納入してくださいますよう、お願いいたします。

2016-2018年期理事長 石田 淳

2016-2018年期事務局主任 遠藤 貢

日本国際政治学会第

9

回奨励賞決定

〔選考報告〕

本年度の学会奨励賞は、黒田友哉会員の「EC/アセアン関係の制度化 一九六七年-一九七五年」(182号) に決定いたしました。その評価については以下の通りです。

受賞作黒田論文は、EUとASEAN諸国の関係の分水嶺となる1970年代前半をASEAN成立期までさかの ぼり、EUとASEANという二つの多国間の枠組みの間での制度的関係の構築がなぜ、どのようになされたの

かをECの側から明らかにした、従来の分野でいえば外交史的アプローチによる業績である。

黒田論文の概要は以下のとおりである。ECはASEANの政治的重要性に鑑み、1971年のASEANによる東

南アジア中立化構想(ZOPFAN)の提案に関心を持ったが、当時の非公式な交渉の中でそれは実現しなかっ

た。しかしその後EC委員会対外関係担当相ソームズの努力でEC・ASEAN関係の公式な制度が議論され、 国際情勢やEC自身がリージョナルなアプローチからグローバルなアプローチに転換していく中で1975年に

は、両地域の条約による契約関係締結までの「暫定的な期間」JSG(共同研究グループ)を設置するにいたっ

た。

学術的な位置づけとして黒田論文は、「暗黒の時代」と呼ばれる70年代から80年代の時期、決してECは 内外の活動を停滞化させていたわけではなかったという、いわば「修正主義」の立場に分類される。そして この論文はASEANとの関係を切り口として、第三世界全体に行動を拡大しようとした当時のECの積極性に 配慮した広い視野からの実証研究である。

先ず、黒田論文については、伝統的な外交史的なアプローチをとったオーソドックスで手堅い業績である

ことで委員は一致した。英独仏の新しい外交文書を渉猟し、EC主要国の立場を綿密に分析した本論文は候補

作のなかではもっとも努力の形跡が見られる論文と見なされた。

第二に、研究動向の上では、ECとASEANとの関係の起源を整理した作品であり、我が国での研究領域の 手薄な分野をカバーしている点でも高く評価された。また欧米の研究動向の中でも70年代のECの対外発展、 とくにアジアへの発展についての研究は近年ようやく活発になってきており、黒田論文が国際的な研究動向 をキャッチアップしている点も委員会では指摘された。

(3)

考委員のなかから出された。

ただし黒田論文には、以下のような難点があるという指摘もあった。「ASEAN」とせず、「アセアン」とい

うカタカナ表記は本学会の他の論稿では一般的ではなく、違和感があること、表記ミス(とくに英文表記)、

注記上の不注意なども散見されるというものであった。こうした点については作者の意識を今後高めてもら うことを前提にして最終的に黒田論文を受賞作とすることで委員全員が合意した。

学会奨励賞選考委員会委員長 渡邊啓貴

〔受賞のスピーチ〕

このたびは、日本国際政治学会奨励賞を受賞出来まして、大変光栄に 存じます。査読に当たって下さった先生方、審査員の先生方、ならびに 取りまとめをしてくださった遠藤貢先生には深く感謝いたします。

この賞の受賞は、まさに青天の霹靂でしたけれども、受賞出来ました ことを考えると、私の狙いが部分的には成功したといえるのかもしれま せん。

論文の内容と背景を少しお話します。私は、ヨーロッパとアジアの相 対的地位が変化する転換期として、1967 年から 75 年までのEC/ASEAN 関係の制度化をとりあげました。そのなかで考慮したのは、まず、地域 主義と地域主義間の関係を、どのように二者間関係(ECとASEAN加盟 国、EC 加盟国と ASEAN)と関連づけるかということでした。まとめる

と、EC 側は共通通商政策の発足という制度上の要因を背景として、EC

全体としてプレゼンスを高める戦略からASEANあるいはASEAN加盟国と交渉するようになります。一方の

ASEAN は、EC と違いそのような制度的理由は弱く、加盟国間の連帯による影響力拡大という利益から、

ASEAN加盟国個別ではなくて、ASEAN全体としてECとの関係構築を図るようになったのです。このよう な流れで、EC・ASEANの地域主義間関係が制度化されていきました。

もうひとつの重要な論文の背景として、フランス留学を語らずにはいられません。私は、大学院時代にフ ランスに数年留学しましたが、そこで得た結論は、第二次世界大戦後のヨーロッパ・アジア関係が研究史上 の空白であり、アジア人である私が埋めるべき立場にいるということでした。その結果、日本の修士課程、 博士課程で研究していたヨーロッパ・アフリカ関係からヨーロッパ・アジア関係へと研究テーマをシフトす るにいたりました。

このようなことが拙稿の背景です。もちろん、この論文が生まれるまでに非常に多くの障害があり、それ を乗り越えることができたのは、数えきれないほど多くの方の支援や日々の交流のおかげです。

しかしながら、時間の関係上、御礼は6 人に絞らせていただくことにします。まずは、大学院時代の指導

教授である田中俊郎先生、学術振興会特別研究員 PD の受入教授である中西寛先生、そして影の指導教授で

あり、いつも草稿に貴重なコメントをくださった細谷雄一先生、フランスで指導してくださった統合史家の ジェラール・ボシュア先生、共著に誘い鍛えてくださった遠藤乾先生、草稿に数々の貴重なコメントをくだ さった山本健先生です。

最後に、私の研究の今後の展望をお話しします。現在、英国のEU離脱決定、難民問題とEUは危機にある

一方、ASEANは昨年末の一応の共同体成立で統合を進めており、以前にもまして地域統合とは何か、が問わ

れているのではないかと思います。そのようななか、研究の蓄積が比較的すくないEU-アジア関係やEU途

上国関係の研究のため、今後も実証的な歴史研究を行っていきたいと思っております。今後ともご指導よろ しくお願いいたします。

黒田友哉(学術振興会特別研究員)

2017

年度研究大会分科会報告の募集について

2017年度研究大会での分科会報告の募集は、2017年1月中に学会ホームページに掲載いたします。報告の

応募等に関しましては、次の点にご留意ください。①統一書式による応募、②報告者には原則的に報告論文 を事前に学会ホームページにアップロードしていただく、③より多くの会員が発表機会を得られるよう、前

(4)

28日(金)です。若手会員はもちろん、中堅以上の会員からも積極的な報告・パネル組織のご提案を期待し

ています。なお、お問い合わせは、各分科会責任者に直接お願いいたします。

【各分科会責任者】(*は2016年11月からの新任)

Aブロック(歴史系) Bブロック(地域系)

日本外交史 熊本史雄 ロシア東欧 小森宏美

東アジア国際政治史 阿南友亮* 東アジア 飯田将史*

欧州国際政治史・欧州研究 広瀬佳一 東南アジア 板谷大世

アメリカ政治外交 倉科一希 中東 吉川卓郎*

ラテンアメリカ ロメロ・イサミ*

アフリカ 加茂省三

Cブロック(理論系) Dブロック(非国家主体系)

理論と方法 鈴木一敏 国際交流 飯森明子

国際統合 臼井陽一郎* トランスナショナル 岡部みどり*

安全保障 千々和泰明* 国連研究 本多美樹*

国際政治経済 岡本次郎* 平和研究 佐藤史郎

政策決定 吉崎知典 ジェンダー 森田豊子

環境 毛利勝彦

若手研究者・院生研コーカス 赤川尚平

研究分科会代表幹事 佐藤史郎

理事会便り

編集委員会からのお知らせ

1. 2017 年度『国際政治』の刊行予定についてご案内します。特集タイトルはすべて仮題です。

189 号「地域から見た国際政治」(編集:大島美穂会員)、190 号「移民・難民をめぐるグローバル・ポ リティクス」(編集:石井由香会員)、191 号「グローバルヒストリーから見た世界秩序の再考」(編集: 秋田茂会員)、192 号「独立論文特集号」。詳細は学会HPをご覧ください。

http://jair.or.jp/committee/henshu/2099.html

2. 2018年度『国際政治』の論文募集を開始しております。193号「歴史のなかの国際平和機構」(編集:篠 原初枝会員)、194号「体制移行と暴力—世界秩序の行方-」(編集:土佐弘之会員)、195号「関係回復 の論理と実証」(編集:泉川泰博会員)。詳細は学会HPをご覧ください。

http://jair.or.jp/committee/henshu/2453.html

みなさまからの積極的な応募をお待ちしております。

3. 独立論文は随時応募を受け付けています。ぜひ奮ってご応募ください。執筆要領等の詳細は学会 HP の

「論文投稿等関係」に掲載されている「『国際政治』掲載原稿執筆要領」をご覧ください。応募・問い合

わせ先は、編集委員会副主任:石川卓 jair-edit☆jair.or.jpまでお願いいたします(☆を@に代えてお送り ください)。

4. 『国際政治』は特集論文、独立論文とも査読プロセスを経ています。執筆から掲載まで一定の修正が求

(5)

いると考えています。会員各位にはなお一層積極的な投稿および再投稿をお願いします。また、編集委

員会より査読をお願いした際には、多くの会員に快くお引き受け頂いており、心より感謝しております。

引き続きお力添えを賜りますよう、お願いします。

5. J-stage での『国際政治』電子版で、刊行後 2 年以降の号の論文については自由に読むことができます。

また刊行2年以内の論文についても、購読者番号とパスワードを用いた会員限定の閲覧を行えます。し

かし先回の『国際政治』送付においてはパスワードに誤記があり、ご迷惑をおかけしました。1月に送

付予定の『国際政治』186号に挟み込んだ用紙に記しますのでご確認ください。

6. 『国際政治』に掲載した論文を執筆者が転載(複製利用)する場合、ご自身の著書等に利用される際は、 事前に文書で理事長に申し出ていただくことになっており、またリポジトリー等に掲載される際は、編 集委員会主任に申し出ていただくことになっております(『国際政治』掲載原稿執筆要領 1-(6)・(8))。

前者については、学会 HP に掲載している申請書をご利用ください。双方とも連絡は編集委員会主任ま

でお願いいたします。

編集委員会主任 大島美穂

国際交流委員会からのお知らせ

1. 2016年度第2回国際学術交流助成公募の結果

2016年度の第2回国際学術交流助成の申請は11月30日で締め切りましたが、審議の結果、鈴木弘隆会

員への助成が決定しました。ここにお知らせします。

2. 2016年度韓国国際政治学会(KAIS)研究大会への参加

2016年12月3日、日本国際政治学会から、石田淳理事長、金ゼンマ国際交流委員会副主任が韓国国際

政治学会研究大会に出席。総会において、石田理事長は韓国国際政治学会創立60周年をお祝いするスピ

ーチを行いました。また、石田理事長は、金副主任の通訳で、KAISのニューズレターに後日掲載予定の

インタビューを受けました。

3. 2016年度海外発信強化助成公募

すでにメーリングリストやホームページでお知らせしましたように、2016年度海外発信強化助成(海外

学会等報告、海外研究者招聘、海外研究者国内旅費)の申請を1月16日締切(一橋事務所必着)で受け

付けております。3月中や、3月末から4月初めにかかる報告・招聘の場合にもご応募いただけます。後 二者についての応募は分科会単位でお願いいたします。詳しくは学会ホームページでご確認ください。 皆様の積極的なご応募をお待ちしております。

国際交流委員会主任 都丸潤子

広報委員会からのお知らせ

学会 HP では、会員の皆様からのシンポジウム等のお知らせや新刊紹介などを随時掲載しております。情

報交換・共有の場としてご活用ください。掲載を希望される場合は、HP右側のメインメニューの「お知らせ

投稿フォーム」をご利用のうえ、ご投稿ください。統一的な記録を残していく必要があるので、お手数です

が、上記の「お知らせ投稿フォーム」への記載をお願いいたします。パスワードにつきましては、紙媒体ニ

ューズレター146号に掲載されていますが、今後は、会費納入用紙、『国際政治』等、各種の郵便物とともに

お知らせします。

その他、ニューズレターやHPに関してお問い合わせ等がありましたら、広報委員会(jair-pr☆jair.or.jp)に ご連絡ください。(☆を@に代えてください)

(6)

学会創設

60

周年記念研究大会(

2016

年研究大会)

国際シンポジウム「

21

世紀の世界秩序」

World Order in the 21st Century

幕張研究大会では、学界創設60周年を記念するため、内外の著名研究者を招いて、国際シンポジウムを開

催した。21世紀が始まってから16年がたつが、すでに国際秩序の様相は、20世紀のそれとはかなり変化し つつある。そのような変化を様々な視点から分析し今後の見取り図を素描することが趣旨であった。以下は その要旨である。

基調講演では本学会の元理事長でもある田中明彦会員が、「Are We Really on our

Way to the New Middle Ages?」というテーマで問題提起を行った。20年前に、「新し

い中世」という本を出版し国際秩序論に一石を投じた。現在の国際秩序は、「新しい

中世」「モダン圏」「混沌圏」の3つの圏にわかれつつあると主張した。しかし、今 回、第1の圏を「自由主義圏」、第2の圏を「現実主義圏」、第3の圏を「脆弱圏」 と呼び直すこととした。これらの圏を分類するには、政治的自由度および経済的繁 栄の2つの軸で測定するが、20年前に比べると、「自由主義圏」の国の数が増えて いることがわかる。これらの「自由主義圏」の国の間では戦争はなく、軍事費も抑

制されている。これに対し、現実主義圏では暴力が多く、脆弱圏ではさらに多い。また近年、自由主義化が 停滞し、貿易・投資も停滞している。非国家主体の能力の増加もみられる。ロシアや中国は地政学的利益を

追求している。圏域間の国際関係も重要で、「自由主義圏」と「現実主義圏」の間の摩擦も増大している。

基調講演の後、Barry Buzan氏, Saori Katada氏, Choi Young Jong氏の3氏から、それぞれの視点から報告が 行われた。

Buzan氏は、現在の国際秩序はポストモダンあるいはポストウェスタンと呼んだ方がよいという。その特 徴は、自由主義の重要な部分である資本主義の正当性に改めて疑義が呈されている点、また超大国が存在し ないという点である。またポストウェスタンという言葉が示唆するように、西洋が没落することにより、力 の分散が顕著である。しかしその一方で、気候変動、パンデミック、テロなど世界が共通の運命を共有しつ つあるという逆説的傾向も共存しているとした。Katada氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)やアジアイン

フラ投資銀行(AIIB)創設に代表されるように、安全保障と経済が渾然一体となりつつあることが現在の国

際秩序の特徴であるとした。いわゆるGeoeconomics(地経学)の台頭である。次にChoi氏は、東アジアの国

際秩序形成の一例として、自ら行った実験的試みについ

て報告した。日中韓三ヵ国の学生を一同に集め、東アジ

ア共同体というアイデンティティが形成可能かを探っ

ているということであった。また今回都合により出席で

きなったZhu Feng氏のペーパーは司会の添谷会員が代

読した。休憩の後は、フロアからの質問に答える形で広

範な議論が展開された。

(飯田敬輔)

2016

年研究大会

部会報告

記念部会A

The Future of Warfare: Global Aspects of Hybrid Warfare

現代の戦争・紛争を見るうえで、「ハイブリッド」

(hybrid, hybridity)は重要概念の一つであるが、現 在のアジア安全保障においてそれはどのような意味 を持つのか。この問いを模索すべく、本部会では内 外の専門家を招集した。

第一報告者であるステファン・ビドル氏(ジョー

ジ・ワシントン大学)は、「ハイブリッド戦争」自体

は新しい現象でないとしつつも、現在特徴的なのは、

軍事技術の高まりと兵器拡散により、従来国家が独 占的に遂行していた通常戦争が、非国家主体の軍事 的オプションになった点だと指摘した。ここでは、 非国家主体がどういう手法で戦争を遂行するかを見

極めることが重要になる。報告では、非国家主体の 行動選択を分析するために、グループの内部政治(組 織構造と戦争目的)に着目した新たな理論枠組み・ 分析視点が紹介された。

二人目の報告者オング・ウェイチョン氏(南洋理 工大学)は、現秩序体制が様々なアクターによって

脅かされているアジア・太平洋地域において、「グレ

(7)

第三報告者の藤原帰一会員(東京大学)からは、 現在の東アジア安全保障においては、核抑止の有用 性の低下にともない、主要国が通常兵器・戦略、特 に海上能力や海事戦略へと回帰する現象が見られる との報告があった。このような変化の要因として、 核兵器の実戦使用が困難であることと、中国の海洋 安全保障への脅威が国家間の直接衝突を避ける限定 的なものであることが指摘された。

司会兼討論者の二村まどか会員(法政大学)から は、ビドル氏の提示する理論は、紛争・戦略研究の 門戸を社会科学全般へ広げるもので、本学会参加者 に重要な研究テーマを提示するものである、またビ ドル・藤原両報告から、現在国家・非国家主体の戦 略はともに「ハイブリッド」ではなくむしろ「通常」 戦略に向かっているとの解釈もできるのではないか とのコメントがあった。もう一人の討論者である髙 橋杉雄会員(防衛研究所)からは、ここ十年、日本 の防衛政策においてもグレーゾーンへの対応が深刻 な課題として世界に先立って認識されてきたことが 説明され、特にオング氏の報告を踏まえ、グレーゾ ーンにおける抑止の実行の難しさが指摘された。

本部会はやや限定的なテーマを扱い、かつ英語の みで行われたにも関わらず、幅広い専門分野の出席 者を集め、活発な質疑応答がなされた。

(二村まどか)

記念部会B

How does Migration become an Issue in International Relations? Institutionalization in Immigration Control and the Reappraisal of Liberal Democracy

本部会では、人の国際移動研究(「マイグレーショ ン・スタディーズ」)をIR研究として捉える試みの 中で、特に制度化や、その要素の一つであるリベラ ル・デモクラシー概念が人の出入国管理との関連に おいてどのように捉えられるかということが検討さ れた。まず、柄谷利恵子会員(関西大学)による報 告 (“Construction and Transformation of Global

Migration Governance: In Whose Interest is It?”)では、

人の国際移動をめぐる問題が複雑化する中において も、難民や移民保護のための国際制度は存続し、ま た、労働や人権、開発援助レジームなどとのリンケ ージを通じて今後ますます発展を遂げる可能性があ るという点が強調された。次に、James F. Hollifield 氏(Southern Methodist University)は、報告(“The

Emerging Migration State”)を通じて、人の移動管理

レジームが、資本や財の移動管理レジームとどのよ うに異なるのか、という問題が着目され、前者に特 徴的なのは権利の問題が付随している点であると主 張した。これは、同氏が自ら定義する「リベラル・ パラドックス」(即ち、リベラルなイデオロギーに拠 って資本や財についての国境を開放する国家が、ま さに同じ理由で人に対しては国境を閉鎖せざるを得 ないというディレンマ)を有効に説明するものでも あ っ た 。 続 い て 、Brenda SA Yeoh 氏 (National

University of Singapore)から、人口(社会)地理学

的視点に基づくアジアでの越境移動の実態について の 報 告 (“Migration Governance and the Migration

Industry in Asia: The Case of Domestic Worker Migration from Indonesia to Singapore”)があった。こ

こでは、詳細なケーススタディに基づき、アジア特 有の人の越境移動の問題であるところの、人の越境

移動を可能にする合法的な媒介ファクター、つまり、

「移民ブローカー」の役割に焦点が当てられた。外 国人の受け入れに対するイデオロギーや大義といっ た問題はここでは影を潜め、専ら経済(社会)ニー ズに基づく人の需給に外国人がどのように寄与して いるか、また、労働需給の効率性のために非国家ア クターがどのように貢献しているか、という点に焦 点が当てられた。

以上の報告に対し、討論者の芝崎厚士会員(駒澤 大学)から、人の移動管理を目的とする国際制度へ の国家や非国家アクターの関与について言及があり、 そのほか、フロアからは、国際公共財として(政治 亡命者を含む)人の移動を捉えるアプローチの妥当 性について(古城佳子会員:東京大学)、移動者の「権 利」概念が内包するものについて(中山裕美会員: 東京外国語大学)、マイグレーションが受け入れ社会 の有り様やひいては国家の構成要素そのものを変え る可能性について(田村慶子会員: 北九州大学)、そ の他、外国人の増加に伴うゼノフォビアへの対応や 制度化のあり方についてなど多数の興味深い質問を 受けた活発な議論が展開された。

(岡部みどり)

記念部会C

The End of Globalization: Lessons from East Asian International Relations in the Interwar Period

本部会のキーワードは「グローバリゼーション」 「戦間期」「教訓」の3つである。二つの世界大戦に 挟まれた1920年代~30年代初めは多国間外交の発 展、国際機構の活動、経済相互依存の拡大といった グローバリゼーションが進行した。

(8)

る諸条約の締結を以て日米両国は安定した関係を築 いたかにみえた。しかし、日露戦争直後以来、間歇 的に発生した人種をめぐる摩擦は両国関係に暗い影 を投げかけた。1924年の排日移民法からアジア・太 平洋戦争中の日系市民の強制収容に至る日米間の人 種問題の構造を、蓑原俊洋会員が分析した。

1930年代半ばを境に国際協調が破綻し、世界が再 び世界大戦へ向かって行く過程は、皮肉にもグロー バリゼーションが必ずしも平和と安定をもたらすも のではないことを示すものであった。

フロアからの質問やコメントを受けて発表者は以 下の諸点を「教訓」として述べた。楊会員は無線技 術が情報伝達の迅速化によって社会を活性化させた 反面、政治・軍事的に国家権力に濫用され、いつの 時代でもテクノロジーが両刃の剣であることを指摘 した。蓑原会員は「人種」という強烈な衝撃力を有 する概念を政治的文脈で安易に弄ぶ危険性を警告し た。一方、後藤会員は、国際連盟が戦間期において 政治的文脈から一定の距離を置いた国際協力を維持 し続けた教訓をも汲み取るべきであると結んだ。

(等松春夫)

記念部会D

Imperial, Post-Imperial, or Pre-Imperial? Global Power Shifts in Historical Perspective

この記念部会は、多極化ないし無極化する国際秩 序とその中での諸大国の行動を、「帝国」をキーワー ドとし、なおかつ歴史的な視点を取り入れて理解す ることを目的として企画した。

マルレーヌ・ラリュエル氏(ジョージ・ワシント ン大学)は、ロシアの野心的な行動を支えるイデオ ロギーとしてのユーラシア概念に注目した。ユーラ シアはヨーロッパ+アジアとも、ヨーロッパでもア

ジアでもない第3大陸とも解釈できる概念で、ロシ

アはこれを独自性の主張、旧ソ連諸国再統合への志 向、「真正なヨーロッパ」としての自己主張などに融 通無碍に使う。同時に、帝国へのノスタルジーを持 ちながら多様性を恐れるという矛盾を抱えている。 なお、ラリュエル氏は残念ながら来日できず、会場 でスカイプを使うこともできなかったため、司会の 宇山がペーパーを代読した。

蔡東傑(ツァイ・トゥンチエ)氏(国立中興大学 /台湾)は、世界史における古典的帝国、ヨーロッ パ帝国、現代帝国の特徴を論じ、抑圧的手法に頼っ て反米主義を引き起こすアメリカは、現代ヘゲモン ではあっても現代帝国になりきれていないとの認識 を示した。中国は世界的なパワーの再配分を戦略的 機会ととらえるが、中国の台頭の成功は、アメリカ に追いつけるかどうかだけでなく、力を効果的に使 えるか、長期的な大戦略を持てるか、紛争解決のた めの公共財を提供できるかにもかかっている。

古矢旬会員(北海商科大学)は、アメリカが帝国 主義を嫌いながら、アメリカ例外主義や「自由の帝 国」レトリックを用いて外国への軍事介入や政権転 覆を繰り返してきた歴史を論じた。そして、いった

んは軍事費を削減したクリントン政権も、ヘゲモニ ー維持・軍事介入の方針は明確だったこと、ブッシ ュ・ドクトリンは一時的な一極状態の産物だったこ と、オバマはこれらとは違う方向を目指したが、結 局何を達成できたか不明確であることを指摘した。 討論者として山本吉宣会員(新潟県立大学)は、

2008年以降、相互浸透的で競争的なヘゲモニー・シ ステムが形成されつつある中で、今後各ヘゲモンが 階層システムを作り、他国が米中間で両賭け戦略を とれるような均衡が生まれるのか、それともパワー 移行が起きるのか、後者だとしたら暴力的か平和的 かを問うた。岩下明裕会員(北海道大学・九州大学) は、帝国の領域性・身体性、帝国の社会的・文化的 意味、アメリカの孤立主義と拡張主義の間の揺れ、 インドの位置づけなどについて問題提起した。全体 として本部会は、冷戦後の変動を数世紀にわたる長 期的視野の中に位置づけ、米中露それぞれの認識や 論理を分析することにより、世界秩序を複眼的に見 る手がかりを提供できたのではないかと考えている。

(宇山智彦)

記念部会E

Asia after the American Age: Toward Multipolar International Relations

本部会は、第1に、中国とインドの台頭がアジア

の秩序に与える影響、第2に、中国とインドに代表

されるネオリベラルな経済政策がアジアの民主主義 の発展に与える影響、を問題意識として設定されて いたが、結果的には「アメリカ後」「アジア」「多極 的」という視座そのものを問う機会となった。

アミタブ・アチャリア氏(アメリカン大学)は、

2007年に本学会英文雑誌IRAPの特集号で自らがバ リー・ブザンと共に提起した「なぜ非西欧IR理論が 存在しないのか」を、再提起した。2007年以降の新

たな展開として、①異なる秩序の並列(↔ウォルツ

の単一化)、②英国学派による国際社会理解への貢献、 ③理論と歴史の相互構成的関係、④「非西欧IR」か ら「グローバルIR」への4点について、論ぜられた。 そしてアジアのIRがグローバルIRに貢献する可能 性が問われたが、アチャリア報告はアジア学派では なく各国の学派が発達するであろうと予測し、それ らが「例外主義」に陥らない普遍性の高いものにな るようにとの希望で結ばれた。

朱峰氏(南京大学)は来日がかなわず、討論者で ある川島真会員(東京大学)が報告を代読した。朱 報告は、本部会が想定するアメリカの相対的衰退を 真っ向から否定した。アメリカのパワー・プロジェ クションの一時的変動は衰退を意味しないこと、中 国とインドの台頭は、システムレベルでのアメリカ の「再分配」能力を制約するには及ばないこと、同 盟国の役割強化によりアメリカの同盟システムは強 化されていること、がその証左とされた。

(9)

ことを躊躇する性向を持っていたが、現政権下で「バ ランシング勢力からリードする勢力へ」の転換がは かられている。報告ではインド外交をグローバル、

地域、サブ地域の3層でとらえる「曼荼羅」枠組み

が示され、インドがグローバルには多極世界の追求、

地域ではアメリカとの協力と中国との競争を行って いるとする。インドのエリートによる台頭の理論化 の試みが、パラダイムシフトにつながるかどうかに は疑問符がつけられた。

討論者の武内進一会員(アジア経済研究所)から は、アフリカ研究がIR理論に貢献したことを紹介し ながら、中国とインドの対アフリカ関与がアフリカ の「弱い国家」論に変容を与える可能性、またアフ リカにおける中国の制度構築能力の限界についての 指摘がなされた。もう一人の討論者である川島会員

は、中国が秩序規範を3つに分別しており、国連の

規範は受け入れるが、アメリカ主導の同盟、グロー バル・スタンダードといった規範は拒否していると 指摘した。またアチャリア報告の「中国学派」に対 して、朝貢システムを国際システムと捉えることに は疑問が呈された。フロアからは、ブザン氏を初め、 多くのコメントが寄せられ、地域研究とIR理論とを 往復しつつ議論を深めることができた。

(伊豆山真理)

部会1「危機のEU

EU の危機が指摘されて久しい。そのインパクト

は単なる一時的なものであるのか、もしくは歴史的 蓄積や理念、規範にもおよぶのか。本部会では危機

の諸相をEU および加盟国、さらに各国の社会も視

野に入れて検討を試みた。

鈴木一人会員(北海道大学)は報告「ホーム=グ

ロウン・テロの台頭とEU の危機管理」において、

欧州におけるテロの変遷を踏まえた上で、ケペルに よるジハードの分類に対し、第四世代のテロの登場 を明らかにした。これにはISによるテロ(第三世代) と異なり、動機は不明確でISとの関係性も複雑であ るが故に、その対策は「誰であるか」という属性に よる予防(航空機の搭乗者リスト等)を基本とする

こと、またEU の価値や理念は社会レベルで危機に

直面していることを指摘した。

ついで臼井陽一郎会員(新潟国際情報大学)の報 告「規範パワーEUの行方:危機にあるEUのグロー

バル戦略」は、二つの EU、リーダー不在で多くが

理事会で決定されるペーパーヨーロッパの EU1と、 事実上EUを動かすドイツやECBといったリアル・ パワーのEU2の存在を指摘した上で、規範パワーと

してのEU がとりわけ法にこだわるユーロリーガリ

ズムとして機能していることを指摘した。これによ り人権やジェンダーといった規範が、対外行動にお いても大きな意味を持つことを論じた。

昔農英明会員の報告「ドイツにおける統合政策と 難民政策」によれば、現在のドイツは、シリア難民 の最大の受け入れ先となっているものの、難民保護 の選別は矛盾をはらんでおり、難民が包摂と排除の

不分明な状況に置かれている。ドイツ難民保護政策 は、民族的文化的に同質的なエスニックネーション 型から、シヴィックネーション型へ転換し、難民の 労働参加と社会への統合が試みられているが、ムス リム移民難民の統合の困難さや、非合法就労の「不 法」移民の不安定雇用や経済的格差といった問題も 存在することが指摘された。

討論者の岩間陽子会員(政策研究大学院大学)か

らは、EU のテロ対策は米英の予防的取り組みと比

較し既存のプロセスに固執し限界があること、また

域外への拡大と難民問題において EUの規範は挫折

しているのではないか、との疑問が呈された。また 池本大輔会員(明治学院大学)からは、これらの危 機はひとまとまりの危機なのか、それとも個別の危 機なのか、といった質問がなされた。

議論では、宮崎孝会員(名古屋経済大学)からは

EU の政治統合が危機に及ぼす影響について、松本

佐保会員(名古屋市立大学)からは通信傍受等によ るテロの未然の防止と人権問題との矛盾について、

また坂井一成会員(神戸大学)からは危機は EUが

飛躍し、まとまるチャンスでもある、といったコメ ント・質問が寄せられた。当日の参加者は70名を越

え、活発な議論が展開され、EU の危機をめぐる学

術的研究の一つの段階を記した部会となった。 (上原良子)

部会2「多元的政軍関係」

本部会では、イラク戦争後の中東情勢によって注 目され始めた多様な軍事組織と、それを統制する多 様な政治アクターによる多元的な政軍関係が、どの ように形成されているのかを論じることを目的とし た。現代の中東では、国家の正規軍だけではなく、 多様な軍事組織が存在する。その一方で、それらの 軍事組織を統制するアクターも、国家の中央政府だ けでなく、多様な政治勢力が存在する。このような 多元的政軍関係は、古典的な政軍関係論では説明で きなかった。

佐野秀太郎会員(防衛大学校)による「21世紀に お け る 軍 事 組 織 の 在 り 方 ~ 民 間 軍 事 警 備 会 社 (PMSC)が提起する課題」は、政府によって統制 されていないPMSCへの外部委託が軍事組織に与え る影響を考察したものである。政治的制約によって

PMSC への委託が増加したことが軍事組織の自己完

結性を阻害しており、その軍事組織をどのように統 制するかが、今後の政軍関係の課題になっていると 論じた。

山尾大会員(九州大学)による報告「分断社会の 多元的な政軍関係―戦後イラクを事例に」は、ポス ト紛争期の分断社会における政軍関係をどのように 分析すればいいのかを、戦後イラクの事例によって 考察したものである。多元的に政軍関係が存在する ポスト紛争期の分断社会では、軍隊に影響力がある 政治アクターの勢力均衡が、政軍関係に安定をもた らすと論じた。

(10)

承認国家の『国軍』形成における課題:イラク・ク ルディスタンの事例から」は、イラク北部のクルデ ィスタン自治区における軍事組織であるペシュメル

ガが、なぜ統一されないのかを考察したものである。

ペシュメルガは、クルディスタン民主党(KDP)や クルディスタン愛国同盟(PUK)に分かれて統制さ れているが、それはクルディスタン自治区が実質的 には国際的に保護されない未承認国家であるがゆえ に、KDPとPUK がペシュメルガを手放せないため であると論じた。

討論者の池田明史会員(東洋英和女学院大学)か らは、各軍事組織が政治的意向に沿って行動してい るのかも重要な視点であることが指摘され、宮本悟 会員(聖学院大学)からは、多元的政軍関係は統合 される過程の状態ではないのかという質問がなされ た。その後、フロアの池内恵会員(東京大学)から もコメントと質問があり、本部会のテーマへの関心 が今後も高まることを伺わせるものになった。

(宮本悟)

部会3「戦後日本外交史研究の現在」

本部会では、2016年が「外交記録公開」制度開始 から40年の節目に当たり、また創設60周年記念大 会を迎えた本学会設立の原点に「日本外交史」があ ったこと等を顧みて、戦後日本外交史研究の現状と 課題、そして今後の可能性を考察することを目指し て、意欲的な三報告がなされた。

報告に先だって「外交文書公開の現状」について 高橋和宏会員(防衛大学校)が簡潔に紹介した後、 村上友章会員(三重大学)は、「『経済的自立』の模 索―高碕達之助と1950年代の日本外交―」と題し、 特需から脱却し経済的自立を求めた時代の日本外交 を、実業家出身の政治家・高碕達之助の行動を通じ て再検討した。高碕は東南アジアから対共産圏へと 外交地平を拡げた経済外交の最前線に位置したが、

その背景には、「海洋国家論」と「大陸発展論」の狭

間で育まれたアジア版・シューマン・プランの理想 が一貫していたことを明らかにした。

次に、高橋和宏会員(防衛大学校)の報告「『自由

化』の相克-1960年代前半の貿易自由化をめぐる政 治・外交過程の再検証-」は、貿易自由化が急激に 進んだ1960年代前半の政治・外交過程を米国・西欧 諸国との外交交渉と国内政策決定プロセスの二つの 政策連関に注目しながら考察し、外務省経済局が内

外二つの交渉を通じて「グローバルな自由貿易主義」

を戦後日本外交の基本方針として定着させていくプ ロセスを明らかにした。

そして、白鳥潤一郎会員(北海道大学)は、「『経 済大国』の苦悩――東京サミット(1979年)と日本 外交」と題して、日本が初めてホスト役を務めた東 京サミットについてその準備過程を含めて検討した。 このサミットは、第二次石油危機発生に際して主要 国間で石油輸入量抑制の中期目標に合意したものだ が、経済大国として求められる国際的な責務と国内 の理解の両立という課題を突き付けられ、大平正芳

首相が苦悩する様子が報告された。

討論者の井上正也会員(成蹊大学)は、3 報告を

概観した後、村上報告に対し、高碕の共産圏外交へ 転換した理由と産業界との関係について問い、波多 野澄雄会員(アジア歴史資料センター)からは、外 務省に比し他省庁の文書公開の遅れが研究の偏りを 招くとの懸念が指摘された後、高橋・白鳥報告に対 し、貿易自由化をめぐる外務省と通産省の対立の要 因、具体的な争点などについて質問がなされた。フ

ロアからも渡邉昭夫会員はじめ5名の質疑があり、

100 名前後の多数の出席者を得て、新たな戦後外交

史研究の可能性を探る活発な部会を終えた。 (原口邦紘)

部会4「日本の対外援助の多角的・理論的分析:

開発・安全保障分野・民主化支援の観点から」

本部会では、日本の対外支援に関して開発と民主

化、安全保障を対象領域とした政策展開をとりあげ、

それを理論的に分析した報告がなされた。日本外交 に関する理論的分析は、実は少ないため、貴重な研 究成果を提示し、議論する場となった。

まず、下村恭民会員(法政大学)の報告「日本の 開発援助政策における『介入度』の変動―折衷主義 的アプローチによる分析―」は、日本の開発援助政 策において、なぜ相手国への政治的介入度に変動が 生じるのかを問い、現実主義と自由主義、構成主義 の視点から説明を試みた。その結果、現実主義と構 成主義の有効性を示しつつ、折衷主義的な分析の必 要性を指摘した。

また市原麻衣子会員(一橋大学)は「ソフトパワ ーとしての日本の民主化支援―新古典的現実主義に よる分析―」と題して報告し、なぜ日本は価値外交 を謳いながらも民主化支援に消極的なのかを分析し た。その際、新古典的現実主義の枠組みを用い、国 際構造のもとで作用した国内要因を浮き彫りにしつ

つ4つの仮説を検証し、官僚の漸進主義と民主化概

念が独自の政策展開を生み出したと論じた。 畠山京子会員(関西外国語大学)の報告「日本の 南シナ海における軍事支援―構成主義と現実主義の 視点から―」は、近年、なぜ日本が南シナ海沿岸国 に対して積極的に安全保障分野での支援を進めてい るのかを検討し、現実主義的構成主義を提示して説 明を試みた。その結果、中国の台頭や尖閣諸島問題 といったパワーに関連する要因以外に、海洋航行に 関する国際規範が変化する事態への懸念が作用した と指摘した。

(11)

は、理論的枠組みや事例の実証面に関して非常に多 くの質問があり、活発な議論が交わされた。理論的 枠組みを援用した日本外交の分析は、海外では多く みられるものの国内では活発とは言えないため、さ らなる議論と研究の拡大、深化が望まれる。

(大矢根聡)

部会5「東アジアをめぐる外交と秩序」 (自由論題企画)

本部会では、中国をめぐる国際関係に関する3つ

の報告がおこなわれた。

Chey Hyoung-kyu会員(政策研究大学院大学)の 報 告 「 A Demand-side Analysis of Currency

Internationalization: Who are the First Movers to the Renminbi?」では、人民元の国際化に関する分析をつ

うじて新たな国際通貨が誕生・普及するメカニズム を明らかにしようとする試みが紹介された。Chey会 員を含む研究グループは、人民元の国際化に関する 従来の議論がもっぱら供給サイド、すなわち中国側 の事情に焦点をあて、需要サイドの事情が軽視され てきたという批判に立脚し、どのような国が他国に 先駆けて人民元を国際通貨として活用するようにな るのかについて分析をおこない、国内に世界的な国 際金融センターを持っている国ほど新たな国際通貨 の登場に前向きな姿勢を示す傾向が強いといった結 果を導き出した。

張雲会員(新潟大学)の報告「国際関係における 戦略認知と外交政策の関連性に関する理論的・実証 的研究―2000年以降の中国の対日外交を中心に」で

は、中国国内の国際戦略専門家を4つの流派に分類

し、各流派を代表的する4人の論客(閻学通、王緝

思、張蘊嶺、王逸舟)の言説の分析ならびに4人の

論客の言説比較がなされた。張雲会員の報告からは、

4 つの流派が、米国ならびにアジア諸国に対して中

国が取るべき姿勢という論点をめぐっては対立しつ つも、中国の外交戦略において日本をマージナルな 存在として扱うという点では共通しているという実 態が浮かび上がった。

高橋慶吉会員(大阪大学)の報告「中国大国化構 想とは何だったのか―アメリカによる戦後アジア秩 序構築の試み」では、第二次大戦後の国際秩序にお いて米英ソと並ぶ地位と役割を中国に付与するとい うローズヴェルト政権の構想が、米国の西半球政策 の経験、すなわち善隣友好外交をつうじて中南米諸 国と自由貿易秩序・共同防衛体制の構築に関して成 果をあげた経験を参考としており、それをアジアに も応用することをねらったものであったという見解 が示された。高橋会員によれば、中国の役割拡大に 期待をかけつつ米国が西半球と同様にアジアにおい ても指導的な役割を担うことを想定していた同構想 は、その後頓挫したと思われがちであるが、実はニ クソン政権やオバマ政権によって継承されたと見な すことも可能である。

討論者の林載桓会員(青山学院大学)は、Chey会 員に対しては理論の妥当性や供給サイドと需要サイ

ドの関係性などについて、張雲会員に対しては中国 における日本専門家の言説のウェイトや国際戦略専 門家の日本認識の背景などについて、高橋会員に対 し て は 米 国 の 外 交 構 想 に お け る 普 遍 主 義 ・ 地 域 主 義・孤立主義の関係性などについて問題提起をおこ なった。フロアからも的を射た問題提起が複数なさ れ、建設的な議論がなされた。

(阿南友亮)

部会6「戦間期日本外交史研究の可能性 ~国際政治史・国際関係論との対話を通じて~」

本部会では、戦間期日本外交史研究が新史料、国 際政治史的なアプローチなどにより新たな地平を開 けるのではないか、という問題意識から、それぞれ の実証的分野において、第一線で活躍している三人 の報告者に、多角的な視点を提起して頂いた。

まず、高光佳絵会員の「国際的民間団体と日本外

交―『太平洋問題調査会』の第2トラック的側面を

中心に」は、知識人が自律的に行動するという自意 識の元で、結果としてワシントン体制が補完されて いた経緯について注目した。その際、日本の非伝統 的外交が挫折していく中で、ソ連の参加という問題 は、連盟という枠も越え、アジア・太平洋に力点を置 くアメリカに重視されていった。他方、調査会が各

国政府の思惑から外れていく動向も紹介され、従属、

補完、自律という要素が複雑に絡まりあう状況が分 析された。

次に、田嶋信雄会員の「戦間期日本の『西進』政 策 と日独 防共 協定― ユーラ シア諜 報 ・謀略 協力の 形 成と挫折」は、日独防共協定が陸軍の「西進」を目 指 した諜 報 ・謀略 の方向 性と 中央ア ジア をつな ぐ空 路の展開と密接な関係を有したことを論じた。これ もソ連要因が重要な政治的動因となっていたという 意味で他報告との共通性があり、日独両国における 反共主義の根深さが強調された。しかし、ノモンハ ン事件と独ソ不可侵条約が「北進」と「西進」の道 を閉ざした結果、「南進」への道が開かれていったと 結論づけている。

最後に、鹿錫俊会員の「日中戦争長期化の形成過 程におけるソ連要因の虚実―中国要人の私文書に基 づく再検討」は、蔣介石の対ソ認識を中心に、国民 党が対日戦でソ連に対してどのような役割を期待し ていたかを綿密に叙述した。ここでもソ連要因が対

外政策上のキー・アクターとして登場し、中国はソ連

との「絶対密約」により日本の要求する共同防共を 受け入れられなかった点が指摘され、ブリュッセル 九カ国条約会議、トラウトマン工作、対日政策の何 れもが、中国のソ連認識と深く関わっていたと論じ ている。

(12)

理論的課題も含む広範なインプリケーションに満ち た部会となった。

(石田憲)

部会7「インサージェンシーの地域比較」

本部会では、国際政治学や安全保障学で注目され てきたインサージェンシー、すなわち、集団的な暴 力を行使して政治的目標を達成しようとする非国家

主体、について地域間比較を行うことを目的とした。

正統な暴力の独占を前提とする伝統的な近代国家概 念や政軍関係概念が、現実といかに乖離しているか を検討し、それらを見直すことが課題であった。

まず、山根健至会員(福岡女子大学)による報告 「フィリピンにおけるカウンター・インサージェン シーと非国家主体の役割」は、フィリピンのミンダ ナ オ 島 中 西 部 で イ ス ラ ム 教 徒 の 独 立 を 目 指 し て

1970 年 代か ら本 格 化し た武 装 闘争 を検 討 する もの

であった。モロ・イスラム解放戦線(MILF)が国軍 のカウンター・インサージェンシーの主体に取り込 まれる一方で、MILF 内部でも対立や分裂といった 変容が起きていると論じた。

続いて、髙岡豊会員(中東調査会)の「シリア紛 争に伴う非国家主体の台頭:シリア東北部の事例か ら」は、2011年のシリア紛争以降に同国で台頭した さまざまな民兵と武装勢力について、その発生形態 と分布を検討するものであった。民兵、武装勢力は さまざまな民族的、宗教、宗派的な背景をもつが、 その発生形態や分布は、1970年以降のアサド政権の 構築過程におけるそれぞれの集団の国家との関係性 に大きく規定された複雑なものであると論じた。

最後に、馬場香織会員(北海道大学)による「近 年のメキシコにみる麻薬紛争と自警団の台頭」は、 メキシコのミチョアカン州で2013年に起きた、麻薬 カルテルに対する自警団の武装蜂起に注目し、非国 家主体が武力によって犯罪組織と対峙する原因につ いて考察した。自警団の蜂起には長年の強い不満と 脅威の存在が確認されるが、農村コミュニティの連 帯とリーダーの存在も重要であったと主張した。

上記の報告に対して、討論者の本名純会員(立命 館大学)からは、それぞれの地域においてセキュリ ティを提供する主体は誰なのか、また、外部アクタ ーによる経済的支援や治安機関の役割の変容につい

て質問がなされた。もう1名の討論者である小泉悠

会員(未来工学研究所)からは、各報告者に対して、 一時的な反政府武装勢力の制圧があってもかたちを 変えて存続する状況がロシアの事例と類似している こと、ロシアのシリア介入のインパクトをどう考え るか、また、ミチョアカンの自警団が農村部隊に統 合されない原因などについてコメントと質問がなさ

れた。その後、フロアの信田智人会員(国際大学)、

中村覚会員(神戸大学)からコメントと質問があり、 活発な議論が交わされた。本部会のテーマの今後の 可能性を十分にうかがわせるものであった。

(中西嘉宏)

部会9(兼市民公開講座) 「中国の構造的権力と周辺諸国・地域」

本部会は、急速に現実化しつつある中国の力に関 する多 様な議論に一 石を投ずるべ く、S.スト レン ジの「構造的権力」概念(構成要素は安全保障、生 産手段、金融秩序、知識をコントロールする力)に 基づく検討を行った。報告は、松田康博「中国の構 造的権力下の台湾」、庄司智孝「構造的権力化する中 国とASEANの対応」、佐橋亮「アメリカは中国の権

力をどのように捉えているか」の3本、泉川泰博会

員と司会の高木がそれにコメントした。

松田報告は、安全保障上は中国と米国の力のバラ ンスが台湾に不利になりつつあり、経済面では貿易 と投資において対中依存が高まっており、金融・信 用面は無関係だが、知識に関しては台湾メディアへ の中国の影響力が強まっているとことを指摘し、そ れが台湾にとっての「繁栄と自立のジレンマ」をも たらしていると論じた。庄司報告は、南シナ海問題 を中心に ASEAN諸国の対応を検討した。経済に関 して、中国は生産と信用の経済インフラ提供を通じ て構造権力化している。他方安全保障面では、その 提供者でなく脅威となっているが、諸国の対応は多 様である。また、諸国が米国と中国の競合に翻弄さ れていることから、ある客体に対して二つの構造権 力が併存している状況の理論化という問題を提起し た。佐橋報告は、米国が中国を「構造的権力」と見 なしておらず、自らの構造的権力への影響という観

点からその力を評価していると指摘した。すなわち、

アジア太平洋、グローバル・ガバナンスにおいては 政治的影響力への警戒があるが、米国に代替する可 能性が懸念されてはいない。軍事面においては、米 国の戦力投射能力を制約する危険性が認識されつつ あるが、対応策の検討も進んでいる。経済面では中 国の対米自立傾向の認識が警戒感には至っていない。

泉川会員は、中国の構造的権力がグローバルには 現実化していないとしても、地域レベルの秩序を動 揺させていることを指摘した。その上で、米国に対 応策をとる意図があるのか、ASEAN が機能不全に 陥らないのか、中台間の構造的トレンドの台湾人意 識への影響等の問題提起がなされた。司会者は、「構 造的権力」概念が中国の現況把握には有効でなくて

も、その方向性の把握には有効性であり得ることと、

経済発展と民主化の関係の分析に倣って、3 報告の

対象の相違が中国の構造的権力が増大し続けた場合 の将来を暗示している可能性を指摘した。

フロアからは、韓国やベトナムが米国には反発し ながら、中国の圧力に靡いている理由、経済的相互 依存と政治的関係、構造的権力のコアと異文化地域 への適用可能性等の問題が提起され、活発な議論が 展開された。

(13)

日韓合同部会

American Rebalance Strategy after Obama: How Sustainable Is It?

恒例の日韓合同部会は、韓国国際政治学会から理 事長のChoi Young Jong教授(韓国カトリック大学)

ほか6名の代表団を迎えて開催された。今回はアメ

リカのアジア戦略(「リバランス戦略」)をテーマに とりあげ、米日・米韓同盟への影響や、オバマ政権 退陣後の同戦略の行方を議論した。司会は、日本国 際政治学会理事長の石田淳(東京大学)が担当した。 ま ず 、 森 聡 会 員 ( 法 政 大 学 ) の 報 告 “American

Rebalance Strategy and the U.S.-Japan Alliance: Assessing Alternatives to the Obama Approach” は、ア ジア・太平洋地域にあらためて重点を置くとするア メリカの戦略には、中国の台頭という勢力分布の変 動を契機に、経済的に活力のあるアジア諸国の間に 亀裂や緊張が生じるのを避ける狙いがあったとした うえで、アメリカは、その軍事的プレゼンス等によ って、日本を含むこの地域の同盟国に対し共同防衛 の約束を再確認する「安心供与(reassurance)」政策 に軸足をおいてきたと分析した。

次に、Kim Taehyung教授(韓国・崇実大学)の報 告 “A Prospect of the Next US Administration’s Policy

toward Korean Peninsula and Seoul’s Response” も、リ バランス戦略の今後は、2016年のアメリカ大統領選 挙の結果次第であるとして、森報告と基本的認識を 共有しつつ、特に朝鮮半島の文脈において、北朝鮮

による核・ミサイル計画が加速する中で、アメリカ による韓国に対する安心供与の説得力が、韓国国内 における核軍備をめぐる論議に少なからざる影響を 与えると指摘した。

二報告に対する村田晃嗣会員(同志社大学)およ びBae Young Ja教授(韓国・建国大学)からの多面 的かつ複合的なフィードバック、さらにフロアから の活発な発言も交えて、質疑応答は狭義の国際安全 保障の次元のみならずTPP交渉、アメリカ国内の選 挙等にまで多岐に及んだ。その中には、東アジアに おいては維持するべき「正統な現状(legitimate status

quo)」について関係諸国の間に共通認識がないとさ れるにもかかわらず、同意によらざる現状変更の「抑 止」や、それを自制するとの「安心供与」を語るこ とは果たして可能なのかという理論的問題の提起、 さらにこれに関連して「日本政府が2012年9月に尖 閣三島の所有権を取得したのは、現状の一方的変更

にあたるものと中国に認識されたのではないか」(村

田会員)という疑問などが含まれる。2 時間半の長

丁場にもかかわらず、30人前後の聴衆のほとんどは

最後まで席を離れることはなかった。今回の部会は、

東アジアの安全保障の重大論点についてこれからも 継続する国際学術対話に基盤を提供する貴重な機会 となった。

(石田淳)

2016

年研究大会

分科会報告

日本外交史Ⅰ 「韓国併合の諸問題」

「韓国併合の諸問題」と題された本分科会では、 まず稲葉千晴会員(名城大学)による「軍事から見 た韓国占領1904年2月」の報告がなされ、ついで李 盛煥会員(韓国・啓明大学)の「日露戦争期の韓国 新聞の分析:当時の韓国に日露戦争はどのように受 け取られたのか?」の報告がなされた。

稲葉報告の問題意識は次のとおりである。すなわ ち、日露戦争開戦100周年を機縁として開催された シンポジウムや論集といった、2004年における一連 の企画において、日露戦争観が――日本が朝鮮半島 をロシアの脅威から解放するための戦争だったとす る従来の解釈から、同戦争は韓国を支配下に置くこ とを明確に視野に入れた戦争であったという解釈に ――大きく変わったことを踏まえ、日露戦争開戦時 における日本陸軍の韓国上陸と占領の意味を軍事史 の観点から考える、というものである。一方の李報 告は、日露開戦当時の韓国における新聞メディアを 分 析対象 に据 え、そ こでの 言説を 「ロ シア脅 威論 」 「日本脅威論」と類型化して、韓国知識人たちの戦 争観、ロシア観、日本観の連関と構造を明らかにし ようとするものだった。

両報告に対して、平山龍水会員(東京国際大学) とヤロスラフ・シュトラフ会員(広島市立大学)か らコメントと質問が寄せられた。稲葉報告に対して は、戦時における日本と韓国の関係を見直すうえで 「日韓議定書」を見直すべきではないか(平山会員)、 その後の日韓条約と同様に、批准を引き延ばそうと する高宗の態度をどのように理解すべきかと、それ を非・合法問題の議論に取り入れるべきではないか (シュトラフ会員)という質問とコメントが、李報 告に対しては、親日的な世論と親露的な高宗という ギャップをどう理解すべきなのか(平山会員)、社会 進化論の前提として人種論を位置づけるべきではな いのか、当該期韓国における新聞読者層はどの程度 広がっており、それに基づく世論とはどのように捉 えられるべきものなのか(シュトラフ会員)という 質問がそれぞれなされた。

フロアからは、1 月に発せられた韓国による中立

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